原作永井紗耶子

- 第169回直木三十五賞
- 第36回山本周五郎賞
- 「ミステリが読みたい!」2024年版 国内篇(4位)
- 「このミステリーがすごい!」2024年版 国内編(6位)
- 「週刊文春ミステリーベスト10」2023年版 国内部門(8位)
- 「読書メーター OF THE YEAR 2023-2024」(5位)






日本文学史上3作品目となるW受賞の快挙を果たした傑作小説『木挽町のあだ討ち』(永井紗耶子著)。時代小説の枠を超え多くの人々の心をとらえて離さないベストセラーが、ミステリーを縦糸に、人情を横糸に、スクリーン上で鮮やかに映し出される。
江戸で語り草となった仇討ちは、いかにして成されたのか。事の真相を探る田舎侍に、演技派・柄本佑。その謎の背後に見え隠れする黒幕に、名優・渡辺謙。一筋縄ではいかない両者の対峙から、映画ならではのダイナミズムがほとばしる。さらに、長尾謙杜、北村一輝、瀬戸康史、滝藤賢一、高橋和也、正名僕蔵、山口馬木也、沢口靖子ら日本映画界が誇る実力派キャストが集結し、“仇討ち”をめぐる人間味豊かで多種多様な群像ドラマを紡ぎ出す。
監督は、華麗な時代劇ドラマで数々の賞に輝く源孝志。彼が繰り出すオリジナルな映像美と、製作スタッフが総力を挙げて創り上げた江戸の舞台、さらにプロの監修によって再現された歌舞伎の息吹きと共に、物語は本格エンターテインメントへと昇華した。
文化七年(1810)一月十六日、江戸・木挽町。
歌舞伎の芝居小屋「森田座」では『仮名手本忠臣蔵』が大入満員で千穐楽を迎えていた。
その仇討ちは、舞台がはねた直後、森田座のすぐ近くで起きた。
芝居の客たちが立会人と化し見守る中、美濃遠山藩士・伊納菊之助(長尾謙杜)が、
父・清左衛門(山口馬木也)を殺害し逃亡していた男、
作兵衛(北村一輝)の首を見事、討ちとったのである。
雪の舞う夜、若き美男子が成し遂げたこの事件は
「木挽町の仇討ち」として、江戸の語り草となった。
それから一年半後、同じ遠山藩で、
菊之助の縁者を名乗る加瀬総一郎(柄本佑)が森田座を訪れる。
総一郎にとってこの仇討ちは、腑に落ちぬ点が幾つかあり、それを解明したいのだという。
あの心優しい菊之助が、
あんな大男の作兵衛をどうやって?
そもそも美濃しか知らない菊之助が、
どうやって江戸の森田座に辿り着いたのか?
早速、客の呼び込みをしている木戸芸者の一八(瀬戸康史)をつかまえる。
話を聴くと、どうやら菊之助は森田座の厄介になりながら、仇討ちの機会を窺っていたらしい。
立師の相良与三郎(滝藤賢一)、元・女形の衣裳方、芳澤ほたる(高橋和也)、小道具方の久蔵(正名僕蔵)、
その妻・お与根(イモトアヤコ)といった森田座の面々から次々に語られていく菊之助の素顔。
だが、森田座を取りまとめる重鎮、戯作者の篠田金治(渡辺謙)は生憎、上方に出張中。
どこか腑に落ちない。何か隠されている気がする。
そして金治が帰還し、ついに事件の日に起こった驚くべき真相が明かされる!
そこには芝居町らしいカラクリと、森田座の人々が織りなす心温まる粋な人情が秘められていた。


遠山藩の元藩士。訳あって藩から追放され浪人となる。妹の許婚である菊之助が起こした「仇討ち事件」の顛末に疑問を持ち、真相を探るため江戸の芝居町・木挽町を訪れる。
何を隠そううちの父は木挽町の生まれでして、今作の小説が出た時に「これは読まなければ」と、あまり本を読まない僕が珍しく買って読んでた小説なわけなのですが、まさか自分にお話が来ようとは思いもしませんでした。
源監督は出演数の1番多い監督。
スタッフも勝手知ったる旧知の仲間。
皆さんとのお仕事はいつも楽しいばかり。
加えて京都太秦撮影所でのがっつり撮影ですから、隅から隅まで俺得でしかない現場でした。
原作を読んだことのある方は「あれ、どうやって映画にするのん??」と思われるかもですがご安心を。
流石源監督。ホンを読んで「そうきたかぁ」と唸りました。
是非お楽しみにしていただけたら、これ幸い。
森田座を束ねる立作者。武士の家系に生まれるも、刀を捨て芝居の世界を選んだ変わり者。森田座に辿り着いた菊之助が背負う宿命を聞き、江戸中を巻き込んだ謀略を巡らせる。
原作を読んだ時、この作品映画でやりたいなと思っていました。源さんから出演をオファーされた時、2つ返事でした。
脚本はミステリーと群像劇の要素が入り、東映らしい痛快なチャンバラ時代劇になりました。
17歳にして武士の掟「仇討ち」の使命を背負った美しき若侍。森田座の世話になりながら仇である作兵衛を探すも、慕っていた存在を討たねばならない運命に葛藤する。
かつて伊納家に仕えた下男。乱心した清左衛門を討った主人殺しの罪人として脱藩する。その後江戸にて、博徒として危険視されるゴロツキへと成り果てる。
巧みな口上で客寄せを担当する森田座の木戸芸者。吉原の生まれで芝居小屋に流れ着いた自身の境遇と同じく、訳あって江戸を訪れた菊之助の世話役を担う。
斬り合いなどの立廻りを振り付ける森田座の立師。かつて桃井道場師範代を務めたほどの腕前をもち、大きな体格で手強い作兵衛を討つための剣術を菊之助に指南する。
女形をしていた森田座の衣裳方。孤児として路頭で迷っていた時に初代の芳澤ほたるに拾われ、二代目を継ぐ。仇討ちに臨む菊之助のために、初代の形見である赤い振袖を託す。
森田座の小道具方。“阿吽の久蔵”と言われるほど無口な男。女房のお与根と住む家に菊之助を居候させていた。何でも作ってしまう腕の良さは金治から名人と評されるほど。
菊之助の父。遠山藩馬廻り役として、家老・滝川主馬の悪事を暴こうとするも圧力をかけられてしまう。伊納家の存続が危ぶまれたことで乱心した末に、作兵衛に殺された。
めしや「つるや」の看板娘。与三郎とは互いに想いを寄せる間柄で、かつて武士を捨てる決心をし、生きる希望を見失いかけた与三郎を救った過去がある。
小道具方・久蔵の女房。流行病で亡くした息子を重ねるように菊之助の寝食の世話をして懸命に支え、仇討ちに苦悩する姿にも寄り添う。
遠山藩の新藩主。藩に入る運上金の横領について、菊之助の父・清左衛門と総一郎に極秘で調べるように内意を伝える。
遠山藩の家老で、特産の美濃和紙を振興させた功労者。しかし裏では藩に入る運上金の一部を横領しており、さらに不正を暴こうとした伊納清左衛門に、濡れ衣を着せる。
菊之助の母。夫を亡くし、さらに武士としての宿命を背負う息子が酷な道を歩まぬよう、古い繋がりがある金治に助けを求める。
直木賞を受賞して間もない『木挽町のあだ討ち』を映画化したい、監督してもらえないか? というオファーを受けたのは、「赤坂大歌舞伎」「中村仲蔵」など、江戸歌舞伎の世界を舞台とした作品が続いていた時期だった。
正直、私的には歌舞伎ものはお腹いっぱいで、半ば断ろうと思っていた。
思っていたのだが…… 渡された原作を、ついつい一晩で読んでしまった。
生き場所を失って芝居小屋に流れ着いた江戸の演劇人たち。彼らの細やかな悲しみが丁寧に織り込まれたエピソードが、重層的にストーリーを動かし、次第に仇討へと収斂されていく展開が見事だった。
脚本をどう書くべきか? と悩んでいた頃、別作品のミーティングでたまたま会った渡辺謙さんが、
「『木挽町のあだ討ち』読んだ? あれ、面白いよね。映画にならないかなぁ」
と私に言った。私はシレッと聞き返した。
「謙さんなら、どの役がやりたいですか?」
「そりゃ〇〇○でしょう?」
「いや、△△の方がいいと思いますよ」
「何それ? 源さんが撮るの?」
「いやいやいや…」
キナ臭い役者と監督の会話である。
この作品を映画化するにあたって、一つ難度の高い問題があった。
私に監督を依頼したプロデューサーは、この人情溢れる物語を、サスペンスタッチのエンターテイメントに仕立て上げて欲しいという。無茶な話である。
この無茶振りに対する打開策を数日ぐるぐると悩み、やがて唐突に「解」を得た。
ダラっと家で見ていた『刑事コロンボ』の再放送が、その『解』をもたらしてくれた。
コロンボの如く、ニュルっと仇討ちに隠された謎に切り込んでいくのは、原作では一言も喋らない男。
すぐに、柄本佑のニュルっとした笑顔が思い浮かんだ。
その前に立ちはだかるのは、渡辺謙率いる、クセ強めの〝森田座アヴェンジャーズ〟。彼らが守ろうとしたものはいったい何なのか? 役者の顔が見えてきたら、脚本は一気呵成に書き終えた。
まだ完成前だが、原作を読んだ読まないにかかわらず、最後まで疾走感を感じるエンターテイメントになっていると思う。
この作品は、読者の皆様を江戸の芝居小屋にご案内するような気持ちで書いていました。それが、オーディブル、歌舞伎に続き、映画に。実際に撮影現場で芝居小屋のセットに入った時、まるでタイムスリップしたような臨場感がありました。監督、スタッフのみなさんのパワーと、役者さんたちの熱演によって、新しい角度から表現される「木挽町のあだ討ち」。ぜひ多くの方に、楽しんで頂きたいと思っています。